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「父が亡くなって、ネット証券に株が残っているらしい。ログインしようにもパスワードがわからないし、売ろうとしても売れないと言われた」——山崎の副業相談室には、こうした相続の場面での相談も届きます。株は預金と違って値段が毎日動くので、「早く売らないと下がるのでは」と焦る方も少なくありません。
山崎正義は、投資で一発逆転を狙って300万円を失った経験があります。その頃の自分は、税金や手続きの「仕組み」を後回しにしていました。相続した株も同じで、先に仕組みを押さえておけば、慌てて不利な判断をせずに済みます。この記事では、親が亡くなったときに株がどうなるのか、相続人の口座へ移す「移管」の手順、相続税を計算するときの評価額の決まり方、そして相続した株を売るときの税金の注意点を順に整理します。特定の銘柄の売買をすすめる記事ではありません。
結論:株は「相続人名義の口座へ移す」まで売れない
先に要点をまとめます。
- 口座は凍結される:証券会社が口座名義人の死亡を知った時点で、その口座での売買や出金は止まる。家族がログインして売ることはできない(してはいけない)
- 移管が必要:株は現金化して分けるのではなく、原則として相続人名義の証券口座へ株のまま移す。移したあとで、売るか持ち続けるかを決める
- 評価額は4つの値段のうち最も低いもの:相続税の計算では、亡くなった日の終値だけでなく、月平均の値段も比べて最も低い額を使える
- 売るときの取得費は「親が買った値段」:相続時の評価額ではない。取得費の資料を捨てると、売却時の税金が重くなることがある
つまり、相続した株は「すぐ売る」ことが仕組み上できません。手続きには数週間から数か月かかるのが普通で、その間も株価は動きます。この前提を知っておくだけで、焦りから来る判断ミスはかなり減らせます。
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ステップ1:故人がどこに株を持っているかを探す
最初の壁は、「どの証券会社に口座があるのかわからない」ことです。ネット証券は郵便物が少なく、家族が気づかないまま残っていることがあります。手がかりは次のとおりです。
| 手がかり | わかること | 確認のしかた |
|---|---|---|
| 証券会社からの郵便物 | 取引報告書・年間取引報告書・配当金の通知など | 郵便物や机まわりの書類を確認する |
| 預金通帳の入出金 | 証券会社への入金、配当金の振込 | 「ショウケン」「配当金」などの記載を探す |
| スマートフォン・メール | ネット証券のアプリ、取引通知メール | アプリの一覧や受信メールを確認する |
| 証券保管振替機構(ほふり) | 故人が口座を持っていた証券会社・信託銀行の名前 | 相続人が「登録済加入者情報の開示請求」を行う |
上場株は電子化されており、保有者の情報は証券保管振替機構(ほふり)に登録されています。相続人であれば、故人がどこの証券会社などに口座を持っていたかの開示を請求できます。開示されるのは口座のある会社名までで、銘柄や株数は各社に問い合わせて確認します。手数料や必要書類はほふりの公式サイトで確認してください。
また、証券会社を通さずに持っていた古い株(いわゆるタンス株だったもの)は、発行会社が開設した「特別口座」で信託銀行などが管理していることがあります。この場合の窓口は、その会社の株主名簿管理人(信託銀行など)です。
ステップ2:証券会社へ連絡し、移管の手続きをする
口座のある証券会社がわかったら、相続の専用窓口へ連絡します。連絡した時点で口座は凍結され、以降は相続手続き用の書類が送られてくるのが一般的です。流れはおおむね次のとおりです。
- 証券会社の相続窓口へ、口座名義人が亡くなったことを連絡する
- 残高証明書を請求する(相続税の申告や遺産分割の話し合いに使う)
- 遺言書の有無を確認し、なければ相続人全員で遺産分割協議を行う
- 株を受け取る相続人が、同じ証券会社に自分名義の口座を開く(すでにあればそれを使う)
- 必要書類をそろえて提出し、故人の口座から相続人の口座へ株を移す(移管)
ポイントは4つ目です。多くの証券会社では、相続による移管先は同じ証券会社の相続人名義の口座が前提になっています。普段使っている別の証券会社へ直接移したい場合は、いったん同じ会社で受け取ってから移す(他社への移管)という2段階になることがあります。
一般的に求められる書類
| 書類 | 役割 |
|---|---|
| 相続手続依頼書(証券会社の所定書式) | 誰がどの株を受け取るかを証券会社に伝える |
| 故人の出生から死亡までの戸籍謄本類 | 相続人が誰かを証明する |
| 相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書 | 相続人本人であること・同意していることを示す |
| 遺産分割協議書 または 遺言書 | 株を誰が受け取るかを示す |
| 法定相続情報一覧図の写し(あれば) | 戸籍の束の代わりに使えることが多い |
書類の種類や印鑑証明書の有効期限は証券会社ごとに違います。法務局で「法定相続情報一覧図」を作っておくと、銀行や複数の証券会社で戸籍の束を何度も出し直す手間を減らせます。
相続税を計算するときの株の評価額
相続税の対象になる財産かどうかを判断するには、株を「いくら」として数えるかを決める必要があります。上場株式の場合、次の4つの値段のうち最も低いものを使うのが基本です。
| 比べる値段 | 例:6月15日に亡くなった場合 |
|---|---|
| ① 亡くなった日の終値 | 6月15日の終値(取引がない日は近い日の終値) |
| ② 亡くなった月の終値の月平均 | 6月の毎日の終値の平均 |
| ③ 前月の終値の月平均 | 5月の毎日の終値の平均 |
| ④ 前々月の終値の月平均 | 4月の毎日の終値の平均 |
たとえば亡くなった日の終値が1,200円でも、前々月の平均が1,000円なら、1,000円で評価できます。株価の一時的な上げ下げで相続税が大きく変わらないようにするための考え方です。月平均の値は、証券会社が発行する残高証明書や、取引所の公表データで確認できます。
相続税は、遺産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合にかかります。申告と納税の期限は、原則として亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
相続した株を売るときの税金:取得費は「親が買った値段」
ここがもっとも誤解の多いところです。相続した株を売って利益が出たとき、その利益を計算する取得費は、相続税の評価額ではなく、故人が最初に買ったときの値段を引き継ぎます。
| 項目 | 扱い |
|---|---|
| 相続税の計算に使う値段 | 上の4つの値段のうち最も低いもの |
| 売ったときの利益の計算に使う取得費 | 故人が買ったときの値段(取得日も引き継ぐ) |
| 取得費がわからない場合 | 売却代金の5%を取得費とみなす方法があり、利益が大きく計算されやすい |
| 相続税を払った人が一定期間内に売った場合 | 払った相続税の一部を取得費に加えられる特例がある(取得費加算の特例) |
証券会社どうしで移管した株は、取得費の情報も引き継がれるのが一般的です。ただし古い株や特別口座から移した株は、取得費が「不明」扱いになることがあります。故人の取引報告書や購入時の記録は、手続きが終わるまで捨てずに保管してください。特定口座と税金の基本は株の税金入門|特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告は不要?で整理しています。
NISA口座の株は、相続人のNISA口座には移せない
故人がNISA口座で持っていた株や投資信託は、相続人のNISA口座へは移せず、相続人の特定口座や一般口座へ移されます。その際の取得費は、故人が買った値段ではなく、亡くなった日の時価になるのが一般的です。NISAで得た利益は非課税のまま相続されますが、移したあとの値上がり益には課税されます。NISAの枠の仕組みは新NISAの基本|つみたて投資枠と成長投資枠の違いをあわせてご覧ください。
手続きの前後で気をつけたいこと
- 家族がIDとパスワードで売らない:凍結前でも、名義人以外が勝手に売買するのは規約違反で、相続人どうしのトラブルの原因にもなる
- 相続放棄を考えているなら、先に手をつけない:株を売ったり受け取ったりすると、相続を認めたとみなされるおそれがある。放棄の期限は原則として相続を知ってから3か月
- 配当金や端数も相続財産:未受け取りの配当金や、単元未満株も手続きの対象になる
- 信用取引の建玉は別扱い:故人が信用取引をしていた場合、建玉は決済されることが多く、損失が出れば相続人が負担することもある。仕組みは信用取引とは?現物取引との違いと、追証が発生する仕組みを参照
相続したお金・株を狙う勧誘に注意する
相続の直後は、まとまった資産を手にしたばかりで、手続きの疲れもあり、判断が甘くなりやすい時期です。山崎正義が130件以上の案件を調査してきたなかでも、「相続した資産をこのまま置いておくのはもったいない」「特別な運用先がある」と持ちかける勧誘は繰り返し確認されています。相手が金融商品取引業の登録業者かどうかは、金融庁の登録一覧の使い方で確かめてください。登録がある業者でも、急いで決める必要はありません。典型的な手口は投資詐欺の典型手口と見分け方にまとめています。
相続ではなく、自分の株を別の証券会社へ移すときの取得価額の引き継ぎや手数料は自分の株を別の証券会社へ移す(移管)手続きで扱っています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続手続き中に株価が下がったら、評価額も下がりますか
相続税の評価額は、亡くなった日を基準にした4つの値段で決まるため、手続き中に株価が下がっても評価額は変わりません。手続きが長引くほど、評価額と実際に売れる値段がずれるおそれがある点は知っておいてください。
Q2. 株を売って現金で分けることはできますか
できます。ただし、多くの場合はいったん代表の相続人の口座へ移管し、その人が売却してから現金を分けるという順番になります。この場合、売ったときの利益の税金は売った人にかかるので、分け方は事前に相続人どうしで話し合っておくと安心です。
Q3. 手続きにはどのくらいかかりますか
書類がそろってから移管が終わるまで、数週間から1か月程度かかることが一般的です。戸籍の取り寄せや遺産分割協議の時間を含めると、数か月かかることも珍しくありません。相続税の申告期限(10か月)から逆算して、早めに動き始めてください。
Q4. 証券会社が破綻していたら、相続した株はどうなりますか
証券会社には顧客の株を自社の財産と分けて管理する義務があるため、原則として株は顧客のものとして扱われます。詳しくは証券会社が破綻したら預けた株と現金はどうなる?で整理しています。
相談先まとめ
- 口座のある証券会社の相続窓口:必要書類・移管先・残高証明書の請求
- 税務署・税理士:相続税の申告、取得費や特例の適用
- 法テラス・日本弁護士連合会:遺産分割で相続人の意見が分かれたとき、相続放棄の判断
- 消費者ホットライン(188)・警察相談専用電話(#9110):相続後に不審な投資勧誘を受けたとき
- 金融庁 金融サービス利用者相談室:金融商品取引業者に関する相談・無登録業者の確認
山崎から一言
親を亡くした直後に、戸籍を集め、証券会社に電話し、税金のことまで考えるのは本当に大変です。そのうえ株価は毎日動くので、「早く売らなければ」と焦る気持ちはよくわかります。けれど相続した株は、仕組み上すぐには売れません。だからこそ、まずは口座を探し、評価額と取得費の資料をそろえ、移管を済ませてから落ち着いて考える。その順番を守るだけで、損な判断や、弱っている時期を狙う勧誘から身を守れます。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の勧誘や投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。本文中の制度・税制の内容は2026年9月時点の一般的な整理であり、個別の相続の状況や法令・証券会社の取り扱いによって変わることがあります。具体的な手続きや申告は、各証券会社・税務署・税理士などの専門家にご確認ください。
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