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こんにちは、YAMAZAKI JOB MEDIA編集長の山崎正義です。副業詐欺で300万円の借金を背負い、そこから立て直す過程で「お金の仕組みを先に知ること」の大切さを痛感しました。今回は、老後のお金の土台になる公的年金のうち、「受け取りを遅らせると増える」という繰下げ受給の仕組みを、日本年金機構と厚生労働省の公表資料をもとに整理します。
とくに、65歳を過ぎても会社員として働き続ける予定の方は、「遅らせたのに思ったほど増えなかった」となりやすい落とし穴があります。数字は制度の資料で確認できたものだけを書いています。
結論:繰下げは1か月0.7%増。ただし「増えない部分」を先に確かめる
先に結論をまとめます。
- 老齢年金は66歳以後に受け取りを遅らせると、65歳から遅らせた月数×0.7%増えます。70歳まで遅らせると42%、75歳まで遅らせると84%の増額です(昭和27年4月2日以後生まれの方などは75歳まで繰り下げられます)
- 老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げられます。片方だけ繰り下げることもできます
- ただし、働いていて在職老齢年金の仕組みで止まる分は増額の対象になりません。加給年金・振替加算も増えず、待機中は受け取れません
- 額面だけで単純に比べると、繰り下げた人が65歳開始の人に総額で追いつくのは、受け取り開始から約11年11か月後です。手取りは税金や社会保険料で変わるので、額面の目安にとどめてください
「何歳まで生きるか」は誰にも分かりません。繰下げは「得か損か」を当てる話ではなく、長生きしたときの備えをどこまで厚くするかを選ぶ仕組みだと考えると判断しやすくなります。
繰下げ受給の基本:何歳まで遅らせられて、何%増えるか
日本年金機構の「年金の繰下げ受給」のページでは、増額率を次の式で示しています。
増額率 = 0.7% × 65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数
繰り下げられるのは66歳以後で、上限は生まれた年などで変わります。昭和27年4月2日以後に生まれた方(または平成29年4月1日以後に受給権が発生した方)は75歳まで、それより前の方は70歳までです。上限を過ぎてから請求しても増額率はそれ以上増えません。
年齢ごとの増額率(早見表)
| 受け取りを始める年齢 | 増額率 | 65歳開始で年100万円の人の場合(額面) |
|---|---|---|
| 66歳 | 8.4% | 年108.4万円 |
| 67歳 | 16.8% | 年116.8万円 |
| 68歳 | 25.2% | 年125.2万円 |
| 69歳 | 33.6% | 年133.6万円 |
| 70歳 | 42.0% | 年142.0万円 |
| 72歳 | 58.8% | 年158.8万円 |
| 75歳 | 84.0% | 年184.0万円 |
※増額率は日本年金機構「年金の繰下げ受給」の早見表より。右列は仕組みを見るための仮の数字で、実際の年金額はねんきん定期便・ねんきんネットで確認してください。
基礎年金と厚生年金は別々に選べる
会社員の老齢年金は、国民年金からの老齢基礎年金と、厚生年金からの老齢厚生年金の2階建てです。日本年金機構は、この2つを別々に繰り下げられる(片方だけでもよい)と案内しています。
たとえば「老齢厚生年金は65歳から受け取って生活費の一部にあて、老齢基礎年金だけ繰り下げる」「その逆にする」といった組み合わせができます。全部を一度に決める必要はない、というのは意外と知られていない点です。
働きながら繰り下げる会社員が見落としやすい「増えない部分」
ここが今回いちばん伝えたいところです。繰下げの増額は、待機中に本来受け取れたはずの年金に対してかかります。言いかえると、もともと受け取れない部分は、遅らせても増えません。
① 在職老齢年金で止まる分は増額されない
65歳以後も厚生年金に入って働く場合、給与と老齢厚生年金の合計が一定額を超えると、老齢厚生年金の一部(または全部)が止まります。これが在職老齢年金です。日本年金機構は、繰り下げてもこの止まる額は増額の対象にならないと明記しています。
基準額は2026年4月に変わりました。厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」によると、改正法の成立時(2025年6月)に決まった基準額は62万円でしたが、2026年4月からは65万円です。日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」での計算は次のとおりです。
| 用語 | 中身 |
|---|---|
| 基本月額 | 加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額 |
| 総報酬月額相当額 | その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12 |
| 65万円以下のとき | 老齢厚生年金は全額支給 |
| 65万円を超えるとき | 支給額=基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2 |
例として、総報酬月額相当額が60万円、基本月額が10万円の人を考えます。合計70万円で基準額を5万円超えるので、その半分の2.5万円が止まり、老齢厚生年金は月7.5万円の支給です。この人が老齢厚生年金を繰り下げても、増額の計算に入るのは止まらずに残る7.5万円の部分だけです。
なお、同じページでは老齢基礎年金は全額支給(在職による支給停止の対象外)とされています。働きながら繰り下げを考えるときに、「厚生年金は停止で増えにくいが、基礎年金は満額が増額の計算対象になる」という差が出るのはこのためです。基準額は毎年度、賃金の変動に応じて改定されるので、繰り下げを決める年の数字で確かめてください。

給与が高い人ほど「厚生年金を遅らせたのに増えた分が小さい」になりがちです。決める前に、ねんきん定期便の見込み額と自分の給与で一度計算してみてください。
② 加給年金・振替加算は増えず、待機中は受け取れない
加給年金は、厚生年金に長く加入した人に一定の条件を満たす配偶者や子がいるときに上乗せされるものです。日本年金機構は、加給年金額や振替加算額は増額の対象にならず、繰下げ待機期間中は受け取れないとしています。
つまり、加給年金がつく見込みの人が老齢厚生年金を繰り下げると、待っている間その上乗せ分を受け取れないうえ、遅らせても増えません。基礎年金と厚生年金を別々に選べる仕組みは、こうした事情に合わせて使い分けるためにもあります。自分に加給年金がつくかどうかは、年金事務所かねんきんダイヤルで確認するのが確実です。
③ 遺族への影響と、税・保険料への影響
日本年金機構の注意点には、次の内容も並んでいます。
- 繰下げで増えた分は、遺族厚生年金の額には反映されない
- 待機中に亡くなった場合、遺族が代わりに繰下げの請求をすることはできず、65歳時点の年金額で決定されて未支給年金として支払われる(時効は5年)
- 年金額が増えると、年金生活者支援給付金、医療保険・介護保険の負担や保険料、税金に影響する場合がある
3つ目は見落とされがちです。額面が42%増えても、手取りが同じ割合で増えるとは限りません。住んでいる自治体や加入する医療保険で変わるので、ここは個別に確かめる部分です。
額面で比べる損益分岐:何歳まで受け取ると追いつくか
「何歳まで生きれば繰り下げたほうが多くなるか」は、額面だけなら単純な計算で出せます。65歳開始で年100万円の人が70歳まで繰り下げると、65〜69歳の5年間の500万円を受け取らない代わりに、毎年42万円多く受け取ります。500万円÷42万円≒11.9年なので、70歳から約11年11か月後(81歳11か月ごろ)に総額が追いつきます。
実はこの「約11年11か月」は、何歳まで繰り下げても同じです。1か月遅らせるごとに増えるのが0.7%なので、受け取らなかった1か月分を取り戻すには1÷0.007≒143か月かかる、という計算になるからです。
| 受け取り開始 | 額面で65歳開始に追いつく時期(目安) |
|---|---|
| 66歳 | 77歳11か月ごろ |
| 68歳 | 79歳11か月ごろ |
| 70歳 | 81歳11か月ごろ |
| 75歳 | 86歳11か月ごろ |
ただし、これは税金・社会保険料・在職停止・加給年金をすべて無視した額面の目安です。前の章で見たとおり、手取りや増額の対象額は人によって変わります。「81歳より長生きしそうだから70歳まで」と決める前に、増えない部分を差し引いた数字で考えてください。
途中で気が変わったら?待機中にまとめて受け取るとき
繰下げは、66歳になった時点で「何歳から受け取る」と約束する手続きではありません。日本年金機構は、66歳以後で受け取りを始めたい時期に手続きするよう案内しています。待っている間に事情が変わることもあります。
- 増額された年金を受け取る:請求した月の翌月分から、その時点の増額率で受け取る
- 65歳にさかのぼって受け取る:繰下げをやめ、65歳からの本来の年金をまとめて受け取る(増額はつかない)
注意したいのは、70歳を過ぎてから65歳にさかのぼって請求するケースです。年金をさかのぼって受け取れるのは5年分までなので、日本年金機構は昭和27年4月2日以後生まれの方などについて、請求の5年前の日に繰下げの申出があったとみなして増額した年金を、その5年分まとめて支払う仕組み(特例的な繰下げみなし増額制度)を設けています。「75歳まで待つつもりだったが72歳で急にお金が必要になった」といった場合に、5年より前の分を丸ごと失わないための仕組みです。
副業・資産形成をしている会社員はどう考えるか
繰下げを選ぶには、待っている間の生活費を別に用意できることが前提になります。65歳以後も働く給与、退職金、iDeCoや企業型DC、NISAで積み立てた資産などが、その「つなぎ」の役割を担います。
山崎が整理すると、考える順番は次のとおりです。
- ねんきん定期便・ねんきんネットで、65歳時点の基礎年金と厚生年金の見込み額を確認する
- 65歳以後も働く予定なら、給与と厚生年金の合計が65万円(その年度の基準額)を超えそうかを見る
- 加給年金がつく見込みかを年金事務所で確認する
- 待機する年数分の生活費を、給与・退職金・iDeCo・NISAなどのどれでまかなうかを決める
- そのうえで、基礎年金と厚生年金を別々に、何歳から受け取るかを考える
iDeCoや退職金の受け取り方は、年金の受け取り時期と組み合わせて考えると税金の負担が変わります。この点はiDeCoの一時金と退職金の受け取る順番の記事で詳しく整理しています。iDeCoの掛金上限の変更は2026年12月からのiDeCo掛金上限の記事、NISAとの違いはiDeCoとNISAの違いの記事も参考にしてください。65歳以後に副業で働き方を変える場合の社会保険の考え方は副業と社会保険料の記事にまとめています。
「年金を増やせる」という勧誘には注意
年金の受け取り方は、詐欺の口実にも使われます。年金事務所や役所の職員を名乗って「年金の還付がある」「手続きすれば年金が増える」と電話をかけ、ATMの操作や口座情報・暗証番号を聞き出そうとする手口は、山崎が300万円の被害を受けた頃から形を変えて続いています。繰下げの手続きは、自分から年金事務所や街角の年金相談センターに出向くか、日本年金機構の正式な窓口に問い合わせて行うものです。かかってきた電話で手続きを進めないでください。
関連報道:ダイヤモンド・オンライン「年金受給「70歳」まで遅らせるとどれだけお得?→富裕層専門税理士がズバリ回答」
年金積立金(GPIF)の運用成績が年金額にどう関わるのかは、株高でGPIFの運用が好調だと自分の年金は増える?年金額が決まる仕組みと、積立金の成績が効く場所・効かない場所で整理しています。
働きながら厚生年金に入ると、繰り下げとは別に年金額そのものが増えます。パートで週20時間働いた場合の増え方は「パートで週20時間働いて厚生年金に入ると、老後の年金はいくら増える?2026年10月の賃金要件撤廃と、勤め先の人数で変わる加入時期」で計算しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 繰下げをするには、66歳になったら何か届け出が必要ですか?
日本年金機構は、66歳以後で受け取りを始めたい時期に手続きするよう案内しています。65歳時点で年金の請求書が届きますが、繰り下げたい年金の扱いをどう書くか(基礎年金だけ繰り下げる場合など)は、手続きの前に年金事務所で確認すると確実です。
Q2. 65歳以後も働いて厚生年金に入っていると、繰下げは意味がありませんか?
意味がなくなるわけではありません。在職老齢年金で止まる分は増えませんが、止まらずに残る部分と、全額支給される老齢基礎年金は増額の計算対象です。給与と厚生年金の合計が65万円(2026年度の基準額)以下なら、厚生年金も全額が対象になります。
Q3. 繰下げ待機中に亡くなったら、待った分は損になりますか?
日本年金機構によると、待機中に亡くなった場合は65歳時点の年金額で決定され、未支給年金として遺族に一括で支払われます(時効は5年)。増額分は受け取れず、遺族が代わりに繰下げの請求をすることもできません。
Q4. 繰り上げ(65歳より前に受け取る)とどちらがよいですか?
繰り上げると年金額は減り、その減った額が一生続きます。どちらがよいかは、健康状態・働き方・ほかの資産で変わるため、一概には言えません。本記事は繰下げに絞っていますが、繰り上げの減額率や条件も日本年金機構の「年金の繰上げ受給」のページで確認できます。
出典(一次情報)
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/zaishoku/20150401-01.html
- 厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00022.html
山崎から一言



繰下げは「得をする裏技」ではなく、長生きに備える保険を自分で厚くする選択です。増えない部分を差し引いて、待つ間の生活費を確保できるかを先に確かめてから決めてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の勧誘や投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。年金の受給額や手続きは個人の加入記録によって異なるため、最終的には日本年金機構の窓口でご確認ください。












