副業の赤字は給与と相殺できる?雑所得と事業所得で変わる損益通算

副業の赤字は給与と相殺できる?雑所得と事業所得で変わる損益通算

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「副業で機材や教材にお金をかけたら、今年は赤字になってしまった。この赤字、本業の給料と相殺して税金を取り戻せないの?」──確定申告の時期が近づくと、相談室によく届く質問です。

先に結論をお伝えします。副業の赤字を本業の給与と相殺(損益通算)できるのは、その副業が「事業所得」に当たる場合だけです。会社員の副業の多くが該当する「雑所得」の赤字は、給与と相殺できず、翌年に繰り越すこともできません。そして、事業所得か雑所得かは「開業届を出したかどうか」では決まらず、事業としての実態や帳簿の保存状況で判断されます。

この記事では、赤字の扱いが所得区分でどう変わるかを表で整理し、2022年の通達改正で示された判定の目安、「副業で赤字を作れば税金が戻る」という勧誘の危うさまで、山崎正義が順に解説します。

※本記事は国税庁の公開情報をもとにした一般的な解説です。個別の判断は税務署または税理士にご確認ください。制度は改正されることがあるため、申告前に最新の情報を確認してください。

目次

結論|赤字を給与と相殺できるかは所得区分で決まる

まず、副業の赤字がどう扱われるかを区分ごとに一覧にします。

副業の所得区分 給与との損益通算 赤字の翌年以降への繰越 典型的な例
事業所得(青色申告) できる できる(純損失を翌年以後3年間) 開業届と青色申告承認申請を出し、帳簿をつけて継続的に営んでいる副業
事業所得(白色申告) できる 原則できない(被災事業用資産の損失などの例外のみ) 事業として営んでいるが、青色申告の承認を受けていない副業
業務に係る雑所得 できない(他の雑所得の中でのみ差し引き) できない 会社員が小規模に続けているライティング、デザイン、物販など

所得税法で、ほかの所得と損益通算できるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つの損失に限られています。雑所得はこの中に入っていません。雑所得の中で、たとえば別の副業の黒字と差し引くことはできますが、それでも残った赤字は「なかったもの」として扱われます。

なお、株式の売買損失の損益通算は、ここで扱う副業の赤字とは別のルールです。株の損失を配当などと相殺する方法は損益通算と繰越控除の基本|複数口座・複数年にまたがる損失の扱い方で整理しています。

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数字で見る|同じ赤字でも区分で結果がこれだけ違う

イメージしやすいように、仮の数字で比べてみます。本業の給与所得(給与所得控除後)が400万円、副業の収入が40万円、副業の経費が100万円で、副業は60万円の赤字だった人の場合です。

項目 副業が事業所得の場合 副業が雑所得の場合
給与所得 400万円 400万円
副業の所得 ▲60万円 ▲60万円(ただし0円として扱う)
合計所得 340万円 400万円
税額への影響 60万円分の所得が減り、会社で源泉徴収された所得税の一部が還付され、住民税も下がる 影響なし(赤字は切り捨て)

※上の表は説明のための仮の数字です。実際の税額は所得控除や税率によって変わります。

所得税率が10%の人なら、60万円の所得が減ることで所得税がおおよそ6万円、住民税(税率10%)もおおよそ6万円下がる計算になります。区分ひとつで10万円以上の差が出うるので、「どちらに当たるのか」を気にする人が多いのは当然です。

事業所得か雑所得か|2022年の通達改正で示された目安

国税庁は2022年10月に所得税基本通達を改正し(令和4年分以後に適用)、事業所得と業務に係る雑所得の区分をはっきりさせました。改正後の考え方は次のとおりです。

判断のポイント 通達・国税庁の説明の要旨
基本の判定 その所得を得るための活動が「社会通念上事業と称するに至る程度」で行われているかどうかで判定する
帳簿書類の保存がない場合 原則として業務に係る雑所得。例外は、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合
帳簿書類の保存がある場合 原則として事業所得に区分される。ただし次のような場合は、事業と認められるかどうかを個別に判断する
個別判断になる例 収入金額が例年300万円以下で、主たる収入(本業の給与など)に対する割合が10%未満の場合/例年赤字で、赤字を解消するための取り組みをしていない場合

ここから読み取れることは3つあります。

① 帳簿がなければ、事業所得を主張するのは難しい

記録を残していない副業は、原則として雑所得です。赤字を給与と相殺したいなら、少なくとも取引を記録した帳簿と、その裏付けになる書類を保存していることが前提になります。何をどこまで残せばよいかは副業の帳簿は何を残せば足りる?雑所得・白色・青色で違う記録の最低ラインで整理しています。

② 開業届を出しただけでは事業所得にならない

「開業届を出せば事業所得になり、赤字を相殺できる」と説明しているサイトや勧誘を見かけますが、通達の考え方はあくまで活動の実態です。開業届は判断材料のひとつにはなっても、それだけで区分が決まるわけではありません。開業届を出すかどうかの判断は副業の開業届は出すべき?出さない場合との違いを参考にしてください。

③ 「毎年赤字」は事業性を疑われやすい

始めた年に初期費用がかさんで赤字になるのは自然なことです。しかし、何年も赤字が続き、売上を伸ばす工夫も経費を見直す動きもないまま給与と相殺し続けていると、「事業ではなく趣味や家計の支出ではないか」と見られやすくなります。山崎正義の経験から言っても、赤字の年ほど「来年どう立て直すか」を記録に残しておくことが、自分の身を守ることにつながります。

赤字を翌年に繰り越せるのは青色申告だけ

事業所得で損益通算してもなお赤字が残る場合(給与などほかの所得より赤字の方が大きい場合)、その残りを翌年以降に持ち越せるかどうかは申告方法で変わります。

申告方法 残った赤字(純損失)の扱い 必要な手続き
青色申告 翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年の所得から差し引ける 青色申告承認申請書の提出、帳簿の作成・保存、赤字の年から連続して確定申告をすること
白色申告 原則として繰り越せない(変動所得の損失や被災事業用資産の損失は例外) -
雑所得 繰り越せない -

会社員の副業では、給与所得があるため赤字の大部分はその年の損益通算で吸収されることが多く、繰越が問題になる場面は多くありません。ただ、副業に大きな初期投資をする予定がある人は、青色申告にしておくかどうかで結果が変わることを覚えておいてください。

「副業で赤字を作れば税金が戻る」勧誘に注意

ここからは、このサイトならではの話です。副業の勧誘では、税金の仕組みを持ち出して高額な商材やサービスを勧める説明が繰り返し使われます。よく見られる言い回しのパターンは次のようなものです。

  • 「副業として始めれば、教材費やツール代は全部経費になる。赤字にすれば会社の税金が戻ってくるので実質タダ」
  • 「開業届を出して赤字申告すれば、毎年還付が受けられる節税ノウハウを教える」
  • 「高額なコンサル料も、事業の経費にすれば半分は税金で取り戻せる」

こうした説明の問題点は、ここまで見てきたとおり赤字を給与と相殺できるかどうかは所得区分次第で、勧誘する側が保証できるものではないことです。事業の実態がないまま赤字を相殺して還付を受け、あとで税務調査などで否認されれば、還付された税金を納め直すだけでなく、過少申告加算税や延滞税が上乗せされる可能性があります。「税金が戻るから実質タダ」という言葉で決断を急がせる勧誘は、支払う金額そのものから目をそらさせる典型的な手口です。

また、経費になるのはあくまで副業の収入を得るために必要な支出です。何が経費として認められやすく、何が否認されやすいかは副業の経費はどこまで認められる?スマホ代・家賃の按分と否認されやすい支出で詳しく解説しています。勧誘の見分け方全般は安全な副業の探し方もあわせて確認してください。

赤字の年に確認したいことセルフチェック

副業が赤字になったら、申告の前に次の項目を確認しておきましょう。

チェック項目 確認できていない場合
自分の副業が事業所得か雑所得か、根拠をもって説明できる 帳簿の有無・収入規模・継続性を整理し、迷うなら税務署に相談する
取引を記録した帳簿と、領収書・請求書を保存している 保存がなければ原則は雑所得。今年から記録を始める
経費は副業の収入を得るための支出に限っている 私用と共用の支出は按分し、根拠をメモしておく
赤字を解消する見通し(売上を伸ばす・経費を絞る)を持っている 来年の計画を書き出しておく。赤字が続くと事業性を疑われやすい
赤字を相殺した場合の住民税の変化を理解している 下の「会社に知られる可能性」を確認する

赤字の損益通算は、会社に気づかれるきっかけになりうる

見落とされがちなのが住民税です。事業所得の赤字を給与と相殺すると、住民税の計算の元になる所得が下がり、会社に届く住民税の決定通知(特別徴収の税額)も本来より少なくなります。副業分の住民税を「普通徴収」にしても、この差は給与分の住民税そのものに表れるため、経理担当者が気づく可能性があります。副業を会社に知られたくない人は、住民税を普通徴収にしても副業が会社にバレる5つのケースもあわせて確認してください。

記録の手間を減らすなら会計ソフトも選択肢

事業所得として申告するなら、帳簿の作成・保存が前提になります。取引が増えてきたら、口座やカードの明細を取り込めるクラウド会計ソフトを使うと記帳の負担がかなり減ります。たとえば freee会計 は、明細の取り込みから確定申告書の作成まで進められるクラウド会計ソフトです。料金や無料期間の条件は公式サイトで確認してください。

ほかの会計ソフトとの違いは副業の確定申告が楽になる会計ソフト比較で比べています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 副業が雑所得で赤字なら、確定申告はしなくてよいですか?

雑所得の赤字は給与と相殺できないため、所得税の面では申告しても税額は変わりません。ただし、医療費控除やふるさと納税などで別に確定申告をする場合は、副業の収入と経費も記載することになります。住民税の申告の要否は自治体によって扱いが異なるため、お住まいの市区町村に確認してください。20万円ルールとの関係は副業の確定申告入門で整理しています。

Q2. 副業を2つしていて、片方が黒字・片方が赤字の場合は?

どちらも雑所得であれば、雑所得の中で黒字と赤字を差し引くことはできます。差し引いた結果がマイナスになっても、その分を給与と相殺することはできません。片方が事業所得の場合は、区分ごとに計算します。

Q3. 過去に赤字を給与と相殺して申告してしまいました。問題になりますか?

事業としての実態があり、帳簿などで説明できるのであれば、事業所得として申告すること自体は問題ありません。実態に不安がある場合は、自分で判断せず、税務署や税理士に早めに相談してください。誤りに気づいて自主的に修正申告をした場合は、税務調査を受けてから修正するより加算税が軽くなる扱いがあります。

Q4. 赤字の年に申告し忘れた分は、あとから還付を受けられますか?

事業所得の赤字で源泉徴収された所得税が戻る場合、還付を受けるための申告は、原則としてその年の翌年1月1日から5年間できます。ただし青色申告の純損失の繰越控除には、赤字の年に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告をするといった条件があります。申告が遅れた場合の扱いは、税務署に確認してください。

Q5. 「実質タダになる」と言われた高額な講座は申し込んでも大丈夫ですか?

税金が戻るかどうかはあなたの所得区分と実態で決まり、勧誘する側が約束できるものではありません。まず支払う総額と解約条件を確認し、少しでも不安があれば契約前に消費者ホットライン(188)へ相談してください。

相談先まとめ

  • ① 消費者ホットライン(188)…「節税になる」「実質タダ」と勧められた講座・商材の契約トラブル
  • ② 警察相談専用電話(#9110)…詐欺の疑いがある勧誘を受けたとき
  • ③ 法テラス…契約トラブルで法的な相談をしたいとき
  • ④ 日本弁護士連合会…弁護士への相談窓口を探すとき
  • ⑤ 最寄りの税務署(電話相談センター)…所得区分や申告方法の個別の判断

山崎から一言

副業の赤字は、それ自体が悪いことではありません。始めたばかりの年に道具や勉強にお金がかかるのは、どんな仕事でも同じです。大切なのは、赤字を「税金が戻るからいい」と考えるのではなく、「この赤字をいつ、どうやって取り戻すか」を考えることです。

副業詐欺で300万円の借金を背負った経験から言えるのは、「実質負担は小さい」「すぐ取り戻せる」という言葉ほど、支払う金額から目をそらさせるということです。税金の仕組みを正しく知っておくことは、節税のためだけでなく、こうした言葉に振り回されないための防具にもなります。まずは自分の副業がどの区分に当たるのか、帳簿を見ながら確かめてみてください。

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