この記事について
「PERが低い銘柄は割安だから買い、と聞いたのですが本当ですか」——山崎の副業相談室に届く投資関連の質問のなかでも、PER・PBRについてのものは決算書の読み方と並んで多いほうです。結論から書きます。PERとPBRは「割安かどうかを判定してくれる装置」ではなく、「市場がその会社にどんな前提を置いているかを読み取るための道具」です。数字が低いこと自体は、買う理由にも避ける理由にもなりません。
この2つの指標が厄介なのは、計算式が簡単で、証券会社の銘柄画面にすでに表示されていることです。誰でも見られるので「わかった気」になりやすく、その気になったところに「PER◯倍だから割安です」という勧誘が刺さります。山崎正義は投資で一発逆転を狙って300万円を失った経験がありますが、当時いちばん効いた殺し文句が、まさにこの手の「数字で説明されると正しく聞こえる話」でした。
この記事では、PERとPBRの意味・計算式・実際の見る手順を整理したうえで、この2つでは何が分からないのかという線引きまで書きます。特定の銘柄をすすめるものではありません。
結論:PERは「利益に対する値段」、PBRは「純資産に対する値段」
細かい話に入る前に、全体像を表で押さえてください。覚えるのはこの2行だけです。
| 指標 | 計算式 | 何と比べているか | ざっくり言うと |
|---|---|---|---|
| PER(株価収益率) | 株価 ÷ 1株当たり利益(EPS) | 会社が稼ぐ力と株価 | いまの利益が続くなら、投資額を回収するのに何年分か |
| PBR(株価純資産倍率) | 株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS) | 会社が持っている財産と株価 | 会社の帳簿上の取り分の、何倍の値段が付いているか |
PERは損益計算書(フロー=1年間の成績)を、PBRは貸借対照表(ストック=ある時点の財産)を見ています。見ている場所が違うので、どちらが優れているという話ではありません。EPSや純利益がそもそも何なのかが曖昧な方は、先に決算書の超入門|売上・営業利益・EPSの見方を読んでから戻ってくると、この先の話が一段わかりやすくなります。
PER(株価収益率)の見方
計算式と、数字の意味
PERは株価 ÷ EPS(1株当たり利益)で求めます。株価1,500円・EPS100円なら、PERは15倍です。この「15倍」は、いまの利益水準が変わらないと仮定した場合、株価が利益の15年分に相当する、という意味になります。
ここで大事なのは、PERの分母が「予想」であることが多い点です。証券会社の画面に出ているPERの多くは、会社が公表した今期の予想利益をもとにした「予想PER」です。予想が下方修正されればPERは自動的に上がりますし、上方修正されれば下がります。株価が1円も動かなくてもPERは変わる——これを知っているだけで、指標に振り回されにくくなります。
| 種類 | 分母に使う利益 | 注意点 |
|---|---|---|
| 予想PER | 今期の予想EPS | 広く使われるが、予想が外れれば前提ごと崩れる |
| 実績PER | 直前期の実績EPS | 確定した数字だが、過去の話。特別利益で歪むことがある |
| (参考)赤字の場合 | 計算できない | PERは「-」表示になる。割安でも割高でもなく、判定不能 |
「何倍なら割安」は決められない
よく「PER15倍が平均だから、それより低ければ割安」という説明を見かけます。これは目安としては存在しますが、業種をまたいで比べた瞬間に意味を失います。成長が期待される業種は将来の利益が大きくなる前提で買われるためPERは高くなりやすく、成熟した業種や景気の波が大きい業種は低くなりやすい、という傾向があるからです。
つまりPERは、比べる相手を決めて初めて情報になります。比較の相手として実用的なのは次の2つです。
- 同じ業種の他社と比べる(業種の平均・中央値と比べる)
- その会社自身の過去のPERの範囲と比べる(過去数年で何倍から何倍の間を動いてきたか)
この2つで見ても、出てくるのは「市場はこの会社に、同業より高い(低い)期待を置いている」という事実だけです。その期待が妥当かどうかは、指標の外側にある事業の中身を見て考えることになります。
PERが低いときに、まず疑うこと
PERが同業より明らかに低いとき、素直に「割安だ」と受け取る前に確認したいことがあります。市場が安く評価しているのには、たいてい理由があります。
| 疑うこと | 確認する場所 |
|---|---|
| 今期の利益に、資産売却などの一時的な利益が入っていないか | 決算短信の特別利益、純利益と営業利益の差 |
| 来期以降の利益が減ると市場が見ていないか | 会社の業績予想、決算説明資料 |
| 業績以外の懸念(訴訟・不祥事・規制)が出ていないか | 適時開示、ニュース |
| そもそも業種全体のPERが低い水準ではないか | 同業他社のPER |
安いものには安い理由があることが多い、というだけの話です。理由を確かめずに「安い」とだけ受け取る癖がつくと、後で説明する勧誘に弱くなります。
PBR(株価純資産倍率)の見方
純資産とは何か
PBRは株価 ÷ BPS(1株当たり純資産)です。純資産は、会社の資産から負債を引いた残りで、帳簿上は「株主の取り分」にあたります。株価1,000円・BPS1,250円ならPBRは0.8倍。帳簿上の取り分より安い値段が付いている、という状態です。
ここで注意したいのは、純資産が会計上の帳簿価額だという点です。たとえば古くから持っている土地は取得時の金額で載っていることがあり、いま売った場合の金額とは一致しません。逆に、買収で計上したのれんのように、事業がうまくいかなければ価値が失われる資産も含まれます。PBRは「解散したらいくら戻るか」を正確に示す数字ではありません。
PBR1倍割れが意味すること
PBRが1倍を下回ると「解散価値以下」と表現されることがあります。ただし実務的な読み方はもう少し地味で、「この会社は預かった資産を使って十分な利益を生めていない、と市場が見ている」という評価が反映されている、と考えるほうが実態に近いです。
これは、PBRが次のように分解できることからも見えます。
PBR = PER × ROE(自己資本利益率)
ROEは、株主の取り分である自己資本を使ってどれだけ利益を出したかを示す指標です。この式は、PBRが低い状態が「利益を生む効率(ROE)が低い」か「市場の期待(PER)が低い」か、あるいはその両方から来ていることを示しています。PBRの低さそのものが問題なのではなく、その低さがどちらから来ているかが見どころだと理解しておくと、数字の扱いを間違えにくくなります。
実際に見るときの手順
2つの指標を並べるだけでは判断材料になりません。山崎正義が初心者の方に伝えている順番は次の5ステップです。証券口座の銘柄画面と、会社のIRページがあれば足ります。
| 手順 | やること | 見るもの |
|---|---|---|
| 1 | PERが予想か実績かを確認する | 証券口座の銘柄詳細の注記 |
| 2 | 同業他社3社ほどのPER・PBRを並べる | 各社の銘柄画面 |
| 3 | その会社の過去数年のレンジと比べる | 会社の決算資料、株価指標の推移 |
| 4 | ズレがあれば、その理由を決算資料で探す | 決算短信・説明資料・適時開示 |
| 5 | 理由が説明できなければ「わからない」で止める | —— |
5番目が抜けている人が、いちばん多いと感じます。指標を調べる目的は「買う理由を見つけること」ではなく、市場が置いている前提を自分の言葉で説明できるかを確かめることです。説明できないものに資金を置かない、という一点だけでも、資金管理としては大きな意味があります。考え方は損切りとリスク管理の基本|資金管理ルールの作り方にまとめています。
PERとPBRで分からないこと
この2つが扱えないことも、はっきりさせておきます。ここを飛ばすと、指標を万能だと思い込むことになります。
- いつ株価が動くかは分かりません。割安に見える状態が何年も続くことは普通にあります
- 会社の現金の流れは分かりません。利益が出ていても資金繰りが苦しい会社はあります
- 事業の中身や競争環境は分かりません。数字は結果であり、理由は事業側にあります
- 赤字の会社や、資産をあまり持たない業態では、そもそも指標が機能しにくいことがあります
- 株価の需給は分かりません。値動きの見方は株価チャートの基本の読み方|ローソク足と出来高のほうが役に立ちます
こうした限界があるからこそ、個別企業の分析を前提にしない選び方も現実的な選択肢になります。個別株と指数連動型の考え方の違いはインデックス投資と個別株投資の違いで比較しています。
「PERが低いから今が買い」という勧誘への注意
ここからは副業・投資詐欺を130件以上調査してきた立場からの話です。SNSやメッセージアプリで届く投資勧誘には、PERやPBRが信頼を作る小道具として使われることがあります。手口として指摘されているのは、次のような形です。
| よく見られる言い回し | 何が抜けているか |
|---|---|
| 「PER◯倍だから割安。いま買えば戻ります」 | 低い理由の説明がない。値上がりを断定できる根拠は示せません |
| 「PBR1倍割れなので下がりようがない」 | 純資産は帳簿上の数字で、株価の下限を保証しません |
| 「この情報は限定公開なので今日中に」 | 指標の話と急かす理由が無関係。判断時間を奪う型です |
| 「専用アプリで含み益を確認できます」 | 画面上の数字と、出金できるかは別の話。出金拒否の相談が多い形です |
PERやPBRは誰でも無料で確認できる公開情報です。公開情報を根拠に「限定の話」を持ちかけてくる時点で、話の筋が通っていません。また、そもそも投資助言や勧誘には金融商品取引業の登録が必要で、無登録の個人・団体が個別銘柄の売買を勧めることは制度上想定されていません。相手が登録業者かどうかは金融庁が公表している免許・許可・登録等を受けている業者の一覧で、誰でも確認できます。典型的な手口は投資詐欺の典型手口と見分け方に整理しました。
よくある質問
Q1. PERとPBR、初心者はどちらを先に覚えるべきですか
どちらか一方ということはありませんが、決算書の流れとつながっている分、EPSを経由するPERのほうが理解しやすいと思います。ただし前述のとおり、どちらも単独では判断材料になりません。
Q2. PERが「-」と表示されるのはなぜですか
利益が赤字などで、分母となるEPSがマイナスまたはゼロのため計算できない状態です。「割安」でも「割高」でもなく、この指標では判定できない、という意味に受け取ってください。
Q3. 米国株でもPER・PBRは同じ見方でいいですか
計算式の考え方は同じです。ただし会計基準・開示のタイミング・市場全体の業種構成が異なるため、日本株での水準感をそのまま当てはめないほうが無難です。制度面の違いは日本株と米国株の違いを比較にまとめています。
Q4. 指標が載っているサイトによって数字が違うのですが
予想EPSを使っているか実績EPSを使っているか、いつ時点の株価を使っているかで差が出ます。複数のサイトを見比べるより、1つの情報源に統一して、条件をそろえて比較するほうが実用的です。
Q5. PERとPBRを見れば、勝てるようになりますか
なりません。指標は、市場の前提を読み取って自分の理解の範囲を確かめるための道具です。「この指標を使えば勝てる」と説明する情報商材やツールがありますが、誰でも見られる公開情報から導ける結論に、そこまでの再現性を主張できる根拠は確認できていません。
困ったときの相談先
| 窓口 | 連絡先 | 相談できること |
|---|---|---|
| 消費者ホットライン | 188 | 契約・勧誘のトラブル全般 |
| 警察相談専用電話 | #9110 | 詐欺被害の疑いがあるとき |
| 法テラス | 0570-078374 | 法的手続きや相談先の案内 |
| 日本弁護士連合会 | 各地の弁護士会 | 返金請求など具体的な法律相談 |
| 金融庁 金融サービス利用者相談室 | 0570-016811 | 投資勧誘・無登録業者に関する相談 |
山崎から一言
PERとPBRを覚えて何が変わるかというと、儲かるようになることではなく、「なぜこの値段が付いているのか」を自分で問えるようになることです。山崎正義が300万円を失ったときに欠けていたのは知識よりも、この問いを立てる習慣でした。他人が出してきた「上がる根拠」を検算する手立てを持たないまま、金額だけが増えていったのです。
指標は、判断を代行してくれません。むしろ「ここから先はわからない」という線を引くために使うものだと考えています。わからないものは買わない、急かされたら降りる。この2つが守れていれば、少なくとも私が踏んだ穴は避けられます。株式投資全体の流れを最初から確認したい方は株式投資の始め方ロードマップから順に読んでみてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の勧誘や投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
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