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「朝9時に成行で買い注文を出したのに、9時10分になっても約定していない。アプリには『特』という印が出ている」——決算の翌朝などに、こうした場面に出会って戸惑う方は少なくありません。この状態を、株の世界では「寄り付かない」と呼びます。
山崎正義は、投資で一発逆転を狙って300万円を失った経験があります。当時は「特別買い気配」を見ると乗り遅れるのが怖くなり、成行の買いを重ねて、想像よりずっと高い値段で約定させていました。この記事では、寄り付かないときに取引所の中で何が起きているのかを、東京証券取引所(東証)の公表しているルールをもとに整理します。板のふだんの読み方やストップ高・ストップ安は別の記事で扱っているので、ここでは「気配の仕組み」に絞ります。特定の銘柄の売買をすすめる記事ではありません。
結論:寄り付かないのは故障ではなく、値段が飛ばないように取引所が待っている状態
先に要点をまとめます。
- 寄り付かないとは:その日の最初の値段(始値)がまだ決まっていない状態。売りと買いの注文が大きく偏っていて、釣り合う値段が直前の値段から離れすぎているときに起きる
- 特別気配:値段を一気に飛ばさず、「この値段より上に買いがあります。売る人はいませんか」と知らせる表示。相手が現れなければ3分ごとに、決められた幅(更新値幅)ずつ気配を動かしていく
- 連続約定気配:約定を重ねながら短時間に値段が大きく動いたときに、1分間だけ売買を止めて相手の注文を待つ表示
- 成行注文:気配が出ている間は約定しない。値段が決まった時点で、その値段がいくらであっても約定する
つまり「注文が通っていない」のではなく、注文は取引所に届いていて、値段が決まるのを待っている状態です。待っている間は取り消しも訂正もできます。あわてて追加の注文を出す前に、まず仕組みを確認しておきましょう。
「寄り付く」とは:朝いちばんの値段は板寄せで決まる
東証の売買には、値段の決め方が2つあります。取引時間中に、条件の合った注文から順に約定させていくザラバ方式と、たまった注文をまとめて突き合わせ、1つの値段を決める板寄せ方式です。
日本取引所グループ(JPX)の説明では、板寄せ方式が使われるのは、立会の開始時、立会の終了時、売買中断後の再開時、そして特別気配・連続約定気配が表示されているときです(出典:日本取引所グループ「内国株の売買制度 売買成立の方法」)。
朝9時の時点では、前の日の夕方から当日の朝までに出された注文がたまっています。これらは「同時に出された注文」として扱われ、成行注文を優先しながら、売りと買いの数量が釣り合う1つの値段を探します。その値段で最初の売買が成立することを「寄り付く」、その値段を「始値(寄り付き値)」と呼びます。
ふだんは9時ちょうどに寄り付きます。寄り付かないのは、釣り合う値段が直前の値段から離れすぎていて、取引所のルールで「すぐには成立させない」と判断された場合です。成行と指値の基本は株の注文方法の基本|成行注文と指値注文の使い分けで整理しています。
特別気配の仕組み:3分ごとに、決まった幅だけ気配を動かす
なぜすぐに約定させないのか
東証は、直前の値段と比べて一定の幅の中に収まるときだけ、次の売買をすぐに成立させることにしています。この幅を「気配の更新値幅」といいます。幅を超えた水準で売買が成立しそうなときは、すぐには成立させず、幅の中の値段に特別気配を表示します。直前より高い値段で成立しそうなら「買い特別気配(特買い)」、安い値段なら「売り特別気配(特売り)」です。
目的は、一瞬で値段が大きく動いて、成行注文が思いがけない値段で約定してしまうのを防ぐことです。特別気配を出しても反対側の注文が入らなければ、3分間隔で、更新値幅と同じ幅ずつ気配を動かしていきます。
更新値幅は株価の水準で決まっている
更新値幅は、そのときの値段(気配値段)の水準ごとに決められています。個人の方が売買することの多い価格帯を抜き出すと、次のとおりです。
| 気配値段 | 更新値幅(上下) |
|---|---|
| 200円未満 | 5円 |
| 500円未満 | 8円 |
| 700円未満 | 10円 |
| 1,000円未満 | 15円 |
| 1,500円未満 | 30円 |
| 2,000円未満 | 40円 |
| 3,000円未満 | 50円 |
| 5,000円未満 | 70円 |
| 7,000円未満 | 100円 |
| 10,000円未満 | 150円 |
10,000円以上の価格帯を含む表の全体は、日本取引所グループ「内国株の売買制度 特別気配の更新値幅」に掲載されています(2026年10月10日に確認)。
計算例:寄り付くまでに何分かかるか
架空の例で考えます。前日の終値が1,000円の株に、朝から買い注文が集まり、売りと買いが釣り合う値段が1,150円だったとします。1,000円以上1,500円未満の更新値幅は30円です。
| 時刻 | 表示 | 状態 |
|---|---|---|
| 9:00 | 1,030円 買い特別気配 | 約定なし |
| 9:03 | 1,060円 買い特別気配 | 約定なし |
| 9:06 | 1,090円 買い特別気配 | 約定なし |
| 9:09 | 1,120円 買い特別気配 | 約定なし |
| 9:12 | 1,150円で寄り付き | 始値1,150円で約定 |
釣り合う値段までの距離 150円 ÷ 更新値幅 30円 = 5回目の表示で到達。3分間隔なので、寄り付きは9時12分ごろ
これは注文の状況が変わらなかった場合の単純な計算です。実際には、特別気配を見て売り注文が出てくれば、もっと手前の値段で早く寄り付きます。反対に買い注文がさらに増えれば、釣り合う値段が遠のいて時間が延びます。「何時何分にいくらで寄り付くか」は、寄り付くまで誰にもわかりません。
気配が値幅制限の上限・下限まで進んでも釣り合わない場合は、ストップ高・ストップ安の気配のまま張りつきます。そこから先の比例配分(ストップ配分)や翌日の扱いは、ストップ安で売れないのはなぜ?値幅制限の仕組みと、比例配分・翌日に起きることで説明しています。
連続約定気配の仕組み:約定しながら急に動いたときの「1分間の待ち」
特別気配は、約定がないまま値段が飛びそうなときの仕組みです。これに対して、約定を重ねながら短時間で値段が大きく動く場面もあります。たとえば1,000円の株に大きな買い注文が入り、1,020円、1,040円、1,060円と売り注文を次々に買い上がっていくような場合です。1回ごとの値動きは更新値幅の中なので、特別気配は表示されません。
こうした動きを抑えるのが連続約定気配です。JPXの説明をまとめると、次のようになります。
- 起点となる値段から更新値幅の2倍を超える水準まで連続して約定しそうなとき、2倍の値段までは売買を成立させ、そこで連続約定気配を1分間表示する
- 対象になるのは、1つの注文で直前の約定値段から2倍を超えて約定が進む場合と、注文の数にかかわらず起点の約定から1分以内に2倍を超えて約定が進む場合
- 表示中は板寄せ方式になり、約定は起きない
- 1分たって、連続約定気配の値段から更新値幅の中に釣り合う値段があれば、そこで売買が成立する。なければ特別気配に切り替わる
先ほどの例に当てはめると、1,000円が起点で更新値幅が30円なら、2倍は60円です。1,060円までは約定が進み、それを超えそうなら1,060円に連続約定気配が1分間表示されます。この制度は2010年の売買システム(arrowhead)稼働とともに導入されたものです(出典:日本取引所グループ 用語集「連続約定気配」)。
| 項目 | 特別気配 | 連続約定気配 |
|---|---|---|
| 表示される場面 | 約定を伴わずに値段が飛びそうなとき | 約定を重ねながら急に値段が動いたとき |
| 基準になる幅 | 更新値幅 | 更新値幅の2倍 |
| 待つ時間 | 3分ごとに気配を更新 | 1分間 |
| その後 | 釣り合えば約定。釣り合わなければ更新を続ける | 釣り合えば約定。釣り合わなければ特別気配へ |
| 表示中の約定 | 起きない | 起きない |
証券会社のアプリでは、特別気配に「特」、連続約定気配に「連」「K」などの印が付くことが多いです。印の表記は会社によって違うので、使っているアプリのヘルプで確認してください。
成行注文が約定しない間に起きていること
注文は取り消されていない。値段が決まるのを待っている
特別気配や連続約定気配が出ている間、成行注文も指値注文も取引所に届いたまま、板寄せを待っています。この間も新しい注文を出すこと、出した注文を訂正・取り消しすることはできます。約定していないからといって、同じ注文をもう一度出すと、寄り付いた瞬間に二重に約定することになるので注意してください。
成行は「寄り付いた値段」で約定する。いくらになるかは選べない
成行注文は「いくらでもよい」という注文です。特別気配の最初の表示が1,030円だったとしても、寄り付いた値段が1,150円なら、成行の買いは1,150円で約定します。「1,030円くらいで買える」と見込んで成行を出すと、想定より1割以上高い値段で買うことになりかねません。
加えて、成行の買い注文を出すときは、多くの証券会社で値幅制限の上限の値段をもとに必要な資金が計算されます。口座の残高に対して思ったより少ない株数しか注文できないのは、このためです。計算方法は証券会社ごとに異なるので、各社の案内を確認してください。
特別気配のときに取れる3つの対応
| 対応 | 起きること | 注意点 |
|---|---|---|
| 成行のまま待つ | 寄り付いた値段で約定する | 値段は選べない。想定より大きく離れることがある |
| 指値に訂正する | 指定した値段より不利な値段では約定しない | 寄り付き値が指値に届かなければ約定しない |
| 取り消す | 寄り付いて値動きが落ち着いてから考え直せる | その間に値段が離れていくこともある |
どれが正解ということはありません。大切なのは、「いくらまでなら買う(売る)のか」を注文の前に決めておくことです。その上限・下限があるなら、成行ではなく指値で表しておくほうが、判断を値動きに任せずに済みます。

特別気配は「乗り遅れるな」という合図ではありません。山崎正義は特買いを見るたびに成行で飛びつき、寄り付いた値段がその日の高値だった、という失敗を何度もしました。注意してください。
逆指値を入れている場合
損切りのために逆指値注文を入れていて、悪い材料で売り特別気配になった場合、寄り付いた値段が逆指値の条件を一気に飛び越えることがあります。この場合、設定した値段よりかなり安い値段で約定することがあります。仕組みは逆指値注文とは?損切りを自動で入れる仕組みと、思った値段で売れない(滑る)4つのケースで整理しています。
引けまで寄り付かなかったらどうなるか
特別気配のまま時間が過ぎると、午前の取引(前場)や午後の取引(後場)が終わるまで値段が付かないこともあります。
東証の後場は、ザラバが15時25分に終わり、5分間の注文受付時間(プレ・クロージング)をはさんで、15時30分に板寄せで終値を決めます(クロージング・オークション)。JPXの説明では、大引けで売買が成立する値幅は、ザラバでの最終の値段(最終気配値段を含む)における更新値幅の2倍までです。その幅の外でしか売りと買いが釣り合わない場合でも、幅の上限・下限の値段に売りと買いがそれぞれ1単位以上あれば成立させる「特別約定」という扱いも設けられています。
それでも成立しなければ、その日は終値が付きません。有効期限を「当日中」にしていた注文は失効するので、翌日も売買したい場合は注文の出し直しが必要です。期間指定の注文がどう引き継がれるかは証券会社ごとに違います。
気配を「売買の合図」にしない:勧誘で使われやすい言葉
特別気配は、需給が大きく偏っているという事実を示すだけで、その後の株価の方向を示すものではありません。寄り付いた直後に反対方向へ動くことも珍しくありません。
山崎の副業相談室には、「朝の特買い銘柄を事前に教える」「寄り付き前の気配で勝てる銘柄がわかる」といった有料グループやツールの勧誘についての相談が届きます。次の点に当てはまるものには近づかないでください。
- 「明日は特買いで始まる」「寄り付きで買えば確実」など、結果を断定している
- 金融商品取引業の登録(投資助言・代理業など)が確認できない相手が、個別の銘柄と売買のタイミングを有料で指示している
- LINEグループやSNSのDMでしか連絡が取れず、運営会社の所在地や責任者が示されていない
登録の確かめ方は無登録業者の見分け方|金融庁の登録一覧で確かめる4ステップを参考にしてください。
寄り付かないときのセルフチェック
- □ アプリの表示が「特」(特別気配)か「連」(連続約定気配)か、ストップ高・ストップ安かを確認した
- □ 自分の注文が成行か指値か、有効期限がいつまでかを確認した
- □ 同じ注文を重ねて出していないかを注文一覧で確認した
- □ 「いくらまでなら買う(売る)のか」を、気配を見る前の基準で決め直した
- □ 特別気配になった理由(決算、業績修正、報道など)を会社の適時開示で確認した
なお、板の基本的な読み方は株の「板」の見方|買い気配・売り気配の読み方にまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 特別気配は最長でどのくらい続きますか
決まった上限の時間はありません。売りと買いが釣り合う値段に気配が届くか、反対側の注文が入って釣り合うまで続きます。値幅制限の上限・下限に達しても釣り合わなければ、その値段に張りついたまま取引時間が終わることもあります。
Q2. 特別気配の間に出した成行注文は、先に出していた人より不利ですか
板寄せでは、値段が決まるまでに出された注文は同時に出されたものとして扱われます。成行注文は指値注文より優先されますが、成行どうしで「早く出したから有利な値段になる」ということはなく、約定する場合は全員が同じ寄り付きの値段です。ただし、ストップ高・ストップ安で比例配分になる場合は、証券会社ごとの配分ルールが関係します。
Q3. 気配の値段より安い指値の買い注文は、寄り付いたら約定しますか
寄り付いた値段が指値以下にならない限り約定しません。たとえば買い特別気配が1,090円まで進んでいるときに1,050円の指値で買い注文を出していても、1,150円で寄り付けばその注文は残ったままです。その後、値段が1,050円まで下がってくれば約定する可能性があります。
Q4. 新規上場(IPO)の初日に値段が付かないのも同じ仕組みですか
基本の考え方は同じですが、新規上場日の初値が決まるまでの気配の運用(気配を動かす幅や更新の間隔、上限・下限の値段)は、通常とは別に銘柄ごとに定められ、取引所から告知されます。該当する銘柄を売買するときは、取引所や証券会社のお知らせを確認してください。IPOの流れはIPO(新規公開株)の仕組みと抽選の流れで整理しています。
Q5. NISA口座の注文でも特別気配の影響を受けますか
受けます。特別気配や連続約定気配は取引所での値段の決め方のルールなので、口座の種類(NISA・特定口座・一般口座)にかかわらず同じように適用されます。
相談先まとめ
投資の勧誘や取引についての不安があるときは、次の窓口が使えます。
- 消費者ホットライン(188):最寄りの消費生活センターにつながります
- 警察相談専用電話(#9110):詐欺被害の疑いがあるとき
- 金融庁 金融サービス利用者相談室:金融商品取引業者に関する相談・無登録業者の確認
- 証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC):証券会社との取引に関する苦情・紛争の相談
山崎から一言



300万円を失った頃の山崎正義にとって、特別気配は「早く買わないと置いていかれる」という焦りの合図でした。仕組みを知ってからは、あれは取引所が「値段が大きく動きます。落ち着いて注文を見直してください」と時間をくれている表示なのだと受け取れるようになりました。寄り付かない数分間は、追加の注文を出す時間ではなく、自分の上限と下限を確かめ直す時間に使ってほしいと考えています。
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