「A証券では利益が出たのに、B証券で大きく負けました。トータルではマイナスなのに、税金だけ引かれています」——山崎の副業相談室には、年末から確定申告の時期にかけて、こうした相談が実際に届きます。証券口座を複数持っている人ほど、この状態になりやすい仕組みがあります。
山崎正義は、投資で一発逆転を狙って300万円を失った経験があります。当時いちばん抜け落ちていたのは、「損をしたときに、制度上どこまで取り返せるのか」を先に知っておくという発想でした。損失が出たあとで慌てて調べても、期限を過ぎた手続きは戻ってきません。
この記事では、上場株式等の損益通算と繰越控除を、「同じ年の中でどう相殺されるか」「複数の口座をまたぐときに何をするか」「翌年以降にどう持ち越すか」という順で整理します。特定の銘柄や証券会社をすすめる記事ではありません。
結論:損益通算は「同じ年の中で相殺」、繰越控除は「引ききれない分を翌年以降3年」
先に結論を書きます。株の損失を税金の計算に反映させる仕組みは、大きく2段構えになっています。
- 損益通算:同じ年(1月1日〜12月31日)の中で、上場株式等の譲渡損失を、ほかの譲渡益や、申告分離課税を選んだ配当金・分配金と相殺する
- 繰越控除:その年の中で引ききれなかった損失を、確定申告をすることで翌年以降3年間持ち越し、将来の利益と相殺する
- 1つの特定口座(源泉徴収あり)の中だけなら、証券会社が自動で損益通算し、払いすぎた税金も自動で調整される
- 複数の口座にまたがる場合と、繰越控除を使う場合は、自分で確定申告をしないと反映されない
つまり「口座が1つで、その年のうちに損も利益も収まっている人」は基本的に手続き不要、「口座が複数ある人」「年をまたいで取り返したい人」は申告が必要、という切り分けになります。税金まわりの前提から確認したい方は、株の税金入門|特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告は不要?を先に読むと、この記事の位置づけが分かりやすくなります。
すでに申し込んでしまった方、いま勧誘が届いている方へ。山崎の副業相談室(LINE・無料)では、届いているDMや契約の画面を送っていただければ、これまでに調査した事例と照合してお答えしています。返金・解約の進め方も個別にご案内します。友だち追加は無料で、いつでもブロックできます。

損益通算とは:同じ年の利益と損失を相殺する仕組み
上場株式等の売却益や配当金には、約20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の税金がかかります。この税金は「1回ごとの利益」ではなく、1年間を通算した利益に対してかかるのが原則です。したがって、同じ年に出した損失は利益から差し引けます。
相殺の順番には決まりがあります。まず譲渡損失と譲渡益の相殺があり、それでも損失が残る場合に、申告分離課税を選んだ配当金・分配金と相殺します。配当を総合課税(配当控除を使う方式)で申告した場合は、この相殺の対象になりません。
数字で見ると:2社の口座を合算するとどうなるか
| その年の取引 | 金額 | 源泉徴収された税額の目安 |
|---|---|---|
| A証券:譲渡益 | +30万円 | 約6.0万円 |
| B証券:譲渡損 | −50万円 | — |
| A証券:受取配当金 | +5万円 | 約1.0万円 |
| 通算した結果 | −15万円 | 本来の税額は0円 |
この例では、年間で見れば15万円のマイナスなので、本来納めるべき税金は0円です。ところがA証券の中では利益しか出ていないため、約7.0万円がすでに源泉徴収されています。確定申告で損益通算をして初めて、この払いすぎた分が還付されます。そして引ききれなかった15万円は、次に説明する繰越控除の対象になります。
複数口座にまたがる場合:源泉徴収ありでも自動では通算されない
ここが実務でいちばん誤解の多い点です。「特定口座(源泉徴収あり)なら申告不要」という説明は、その口座1つで完結している場合の話です。証券会社は他社の口座の損益を知りようがないため、口座をまたいだ相殺は自動では行われません。
| 状況 | 損益通算 | やること |
|---|---|---|
| 1つの特定口座(源泉徴収あり)の中で損も益も完結 | 自動 | 原則なし |
| 複数の証券会社の口座にまたがる | 自動ではされない | 各社の年間取引報告書を集めて確定申告 |
| 特定口座(源泉徴収なし)・一般口座がある | 自動ではされない | 確定申告(利益が出ていれば申告義務が生じる場合あり) |
| 年間トータルが損失で、繰り越したい | — | 損失の出た年から確定申告 |
| NISA口座での損失 | 対象外 | 手続きをしても通算できない |
口座の種類そのものの違いがあいまいな方は、証券口座の選び方入門|特定口座・一般口座・NISA口座の違いを先に確認してください。どの口座で買ったかによって、あとから選べる手続きが変わってしまうのが、この分野の面倒なところです。
繰越控除:引ききれない損失を翌年以降3年間に持ち越す
損益通算をしてもなお残った損失は、確定申告をすることで翌年以後3年間にわたって繰り越し、その間の譲渡益や申告分離課税の配当と相殺できます。制度の正式な名称は「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」です。
繰越控除を使うための条件
- 損失が出た年に確定申告をしていること(申告しなければ、そもそも繰越が始まりません)
- その後の年も、取引がなかった年を含めて連続して確定申告をしていること。1年でも申告が抜けると、そこで繰越が途切れます
- 繰越の対象になるのは上場株式等の譲渡損失。NISA口座の損失や、後述するFX・暗号資産の損失は対象外です
この「取引がなかった年も申告する」という条件が、実際にいちばん落ちやすいポイントです。相場から一度離れていた年に申告を忘れ、戻ってきたときには繰越が消えていた、という相談が届きます。
数字で見ると:15万円の損失を3年で使い切る流れ
| 年 | その年の損益 | 繰越損失の残高 | 課税される利益 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | −15万円 | 15万円 | 0円 |
| 2年目 | +10万円 | 5万円 | 0円(10万円を相殺) |
| 3年目 | +8万円 | 0円 | 3万円(5万円を相殺) |
| 4年目 | +20万円 | 0円 | 20万円 |
2年目・3年目は、証券会社の口座内ではいったん源泉徴収されます。繰越控除は確定申告をして初めて適用され、引かれすぎた税金があとから戻ってくるという順番です。口座の画面上で自動的に消えていくものではない、と覚えておいてください。
損益通算できないもの・申告前に確認したいこと
| 区分 | 上場株式等との損益通算 | 補足 |
|---|---|---|
| NISA口座(つみたて投資枠・成長投資枠) | できない | 利益が非課税である代わりに、損失も「なかったもの」として扱われる |
| FX・くりっく365・商品先物 | できない | 「先物取引に係る雑所得等」として別枠の申告分離課税。同じ区分どうしなら通算でき、繰越も可能 |
| 暗号資産(仮想通貨) | できない | 原則として雑所得(総合課税)。繰越控除の対象にもならない |
| 米国株など外国株式 | できる | 円換算した譲渡損益で通算する。外国税額控除は別の手続きで、米国株の税金|二重課税と外国税額控除の基本で整理 |
| 公社債・公募公社債投資信託 | できる | 上場株式等と同じ区分として扱われる |
NISAが対象外である点は、制度を選ぶ段階で知っておきたいところです。新NISAの基本|つみたて投資枠と成長投資枠の違いでも触れていますが、非課税制度は「利益が出たときに効く」仕組みであって、損失が出たときの受け皿にはなりません。
申告することで別の負担が増える場合がある
確定申告で損益通算・繰越控除を使うと、還付は受けられる一方で、申告した金額が合計所得金額に算入されるため、思わぬところに影響することがあります。
- 配偶者控除・扶養控除の判定(家族の扶養に入っている場合)
- 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の算定
- 各種の給付・助成の所得制限
還付される税額より、保険料の増加額のほうが大きくなるケースもあり得ます。「申告したほうが得」とは一概に言えないので、扶養に入っている方や自営業で国民健康保険に加入している方は、金額を出したうえで比べてください。なお、所得税と住民税で異なる課税方式を選ぶ扱いは、現在はできなくなっています。
手続きの流れ:年間取引報告書を集めるところから
- 各証券会社から「特定口座年間取引報告書」を取得する(1月中旬〜下旬に電子交付されることが多い)。口座を持っている会社の分をすべて集めます
- 年間の合計を出す。譲渡損益と配当等をそれぞれ合算し、通算後にプラスかマイナスかを確認します
- 確定申告書を作成する。上場株式等の譲渡損失を繰り越す場合は、あわせて所定の付表(繰越用の明細)を提出します
- 翌年以降も、取引がなくても申告を続ける。繰越の残高を引き継ぐための必須条件です
- 控えを保管する。繰越の残高は自分で管理する必要があるため、最低でも4年分は手元に残しておきます
| セルフチェック | 該当したら |
|---|---|
| 証券口座を2社以上持っている | 年間トータルを自分で計算する |
| 今年トータルで損失が出ている | 繰越のために申告を検討する |
| 去年・一昨年に損失を申告した | 今年も続けて申告する(取引がなくても) |
| 家族の扶養に入っている | 申告で扶養の判定に影響しないか先に確認する |
| 損失がNISA口座で出た | 通算・繰越の対象外なので、この手続きは不要 |
山崎の見解:「税金が戻る」を入り口にした勧誘に注意
損益通算・繰越控除は、損をした人にとって数少ない救済の仕組みです。それだけに、「還付金を最大化します」「申告の裏技を教えます」といった触れ込みの勧誘と相性が良いという側面があります。山崎正義が130件以上の案件を調査してきた中でも、税金の不安を入り口にして高額な情報商材やコンサルへ誘導する構図は、繰り返し確認されてきました。
- 還付額の見込みを先に提示し、その金額を根拠に有料サービスを契約させようとする
- 「損失を作って節税」といった、実態のない取引をすすめる
- 税理士資格の有無に触れないまま、個別の申告代行を有償で請け負おうとする
- 手続きの話から、損失を取り返すための「必勝手法」へ話をすり替える
損失が出た直後は、取り返したい気持ちが強くなります。山崎正義が300万円を失ったときも、いちばん危なかったのはその時期でした。手続きの相談先は、税務署・税理士・証券会社のサポートという公式の窓口で足ります。有料の「特別な方法」は必要ありません。投資の話に乗せられかけていると感じたら、投資詐欺の典型手口と見分け方で手口のパターンを確認してください。
そもそも損失を小さく抑える設計については、損切りとリスク管理の基本|資金管理ルールの作り方で整理しています。繰越控除は「損をしてもいい理由」ではなく、あくまで結果として損が出たときの後処理です。
よくある質問
Q1. 特定口座(源泉徴収あり)を1つだけ使っています。何もしなくていいですか。
その口座の中で損も益も完結していて、繰越の必要がなければ、原則として手続きは不要です。年間で損失が残っており、翌年以降に繰り越したい場合だけ、確定申告が必要になります。
Q2. 損失が出た年に申告を忘れました。あとから繰越できますか。
期限内申告をしていない場合でも、還付を受けるための申告として一定期間内であれば提出できる余地はありますが、条件は状況によって変わります。個別の可否は税務署または税理士にご確認ください。本記事で断定できる範囲を超えます。
Q3. FXの損失と株の利益を相殺できますか。
できません。FXは「先物取引に係る雑所得等」という別枠の申告分離課税で、上場株式等とは通算できない仕組みです。FX同士や商品先物との通算、および3年の繰越は可能です。FXの前提はFXとは?仕組み・レバレッジ・損失リスクで整理しています。
Q4. NISA口座で損失が出ました。特定口座の利益と相殺できませんか。
できません。NISA口座での損失は税務上「なかったもの」として扱われるため、損益通算にも繰越控除にも使えません。利益が非課税になることの裏返しの扱いです。
Q5. 繰り越した損失は、配当金とも相殺できますか。
できます。ただし、その配当を申告分離課税で申告した場合に限られます。総合課税(配当控除を使う方式)を選ぶと、繰越損失との相殺はできません。どちらが有利かは他の所得によって変わるため、金額を出して比べてください。
困ったときの相談先
- 税務署(税務相談):申告書の書き方・繰越の手続きそのもの
- 消費者ホットライン(188):勧誘トラブル・契約全般の相談窓口
- 警察相談専用電話(#9110):詐欺被害が疑われるとき
- 法テラス:法的な手続きや費用の相談
- 日本弁護士連合会:弁護士を探すとき
- 金融庁 金融サービス利用者相談室:業者の登録確認、無登録業者に関する情報提供
山崎から一言
損益通算と繰越控除は、地味なわりに「知っていた人だけが取り戻せる」典型的な制度です。証券会社が自動でやってくれる範囲は、あくまで1つの口座の中まで。口座を増やした時点で、合算の責任は自分に移ります。
そして、この制度で戻ってくるのは払いすぎた税金の分だけで、失った元本ではありません。山崎正義が300万円を失ったときに痛感したのは、後処理でどれだけ整えても、入口で無理をした分は戻らないということでした。取り返す手段より先に、そもそも取り返さなくていい持ち方を考える。順番はこちらだと思っています。株式投資全体の流れは株式投資の始め方ロードマップにまとめてあります。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の勧誘や投資助言ではありません。また、個別の税務判断を行うものでもありません。実際の申告にあたっては税務署または税理士にご確認ください。投資判断はご自身の責任でお願いします。
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